結婚初夜
黄金色の奇跡みたいな髪を風になびかせて、20世紀の娘キャロル・リードは困っていた。 今日は結婚初夜。 もう子供じゃないから、それが何を意味するのかくらい分かっている。 分かっているが、それでもやっぱり不安がぬぐい去れないのはきっと自分が女の子だからだろう。 古代へ来る前、学校で何人かの女友達と集まってそういう話をしたことはある。 くすくす笑いながら、「ええ?やだぁ」なんて冗談を言い合った。 そのときに色々経験済みの子から話を聞いたが、それを今こうして自分がしようとしているなんて。 「…やっぱり怖い…」 不安を喉から紡ぎ出す。 個人差があるって聞いたけれど、一体全体どのくらい痛いんだろう。 ぎゅ、と手を合わせて、キャロルは恋人の到着を待った。 どうしてもアレだったら、途中でやめてもらえばいいわよね―――― そんなことを考えながら。 「メンフィス…」 徐々に熱を帯び始めた吐息と共に、キャロルの囁き声が響き渡る。 豪奢な天蓋付きの寝台の上。 じゃれるように絡み合う漆黒の絹と黄金の絹。 褐色の肌と白磁の肌が遊ぶように重なり合う。 「愛いやつよ…」 そっと落とされた首筋へのキスに、キャロルはぴくんと頬を引きつらせた。 メンフィスの細く大きな手がキャロルの胸元を魅惑的に這っていく。 すべすべとした、まるで子供のような肌。 包み込むようにその膨らみに触れると、キャロルは小さく声をあげた。 初めてで、気持ちいいというよりは何だかくすぐったい感触。 メンフィスはこれ以上ないくらい優しく愛撫を繰り返す。 大切に扱ってくれているのだと、何だか胸が熱くなった。 「…メンフィス?」 ときおり漏れる吐息の狭間で、キャロルがそっとその名を呼んだ。 「何だ?」 作業を中断せずに、メンフィスは声だけでそれに答える。 「私…初めてで。だから…その…上手く、出来ないかもしれないけど―――ごめんね…?」 恥ずかしそうに言うキャロル。 メンフィスは少し驚いたように顔を上げて。 それから愛おしげに微笑んだ。 「―――そなたをこうして愛せるなど…まるで夢のようだ」 「ん…」 胸の頂きに口づけられて、キャロルは少し戸惑う。 果実のように桃色のそれは、そんな戸惑いとは裏腹にメンフィスの口内でゆっくりと反応を見せていく。 舌でその反応を感じ取って、メンフィスは胸を愛撫する腕に力を加えた。 「メンフィス…」 はぁ、と悩ましげに息を吐いて。 キャロルは自分の胸に広がるメンフィスの髪をきゅ、と握る。 胸の蕾を愛撫する舌は、まるで何かの生き物のようで少し淫らだ。 先程から襲う不慣れな感触は、キャロルにとって不可思議なもので。 メンフィスの舌は、胸の頂きを越えてゆっくりと下へと降りていく。 キャロルは、ただただ熱く彩られた息を吐き出すことしか出来ない。 しかし、突然ぞくりと何かが背筋を走った。 肌が泡立つような、初めての感覚。 驚いてキャロルは視線を下のほうへ向けると、メンフィスの細い腕が自分の股の中へと消えていた。 「な、何してるの?」 半ば愕然と口を開く。 「痛くないように慣らしておかねばならぬだろう?」 反対に平然と答えたメンフィスは、触れていたその手をく、と曲げた。 そのままキャロルの花心をそっと撫で上げる。 すると、キャロルの躯がびくん、と揺れた。 「や、やだ…」 「私に任せておけ」 何を任せるのかと疑問が一瞬頭をよぎったが、何しろそれどころではない。 ぞくぞく、と得体の知れない何かが肌を過ぎ去っていく。 規則的に撫でられるその緩慢な動きが、余計に恥ずかしさを誘った。 「メンフィス…っ」 ぎゅ、と純白のシーツを握る。 そうでもしないと、熱くて頭がどうにかなりそうだ。 メンフィスはキャロルの胸元に口づけながら、急にその手の動きを強くした。 「あァ…!」 突如これまでとは比べモノにならない快感がキャロルを襲う。 熱く火照った花心を弄び、ときに押し潰すようにこね上げる。 無意識のうちに潤んでいたそこが、微かに卑猥な水音を立てた。 「や!…っヤダ…」 キャロルが身を強張らせる。 耐えようのない感覚に伝う額の汗。 そして自覚せざるをえないその潤みが、ますます羞恥心を駆り立てていく。 「あ、あぁ…」 ぴん、と爪先を反らせてキャロルは喘いだ。 天井を見上げていた瞳も閉じられて今は何も見えない。 メンフィスの愛撫はますます激しさを増していく。 「メ、メンフィス…!お、お願いだからもう――――」 必至な懇願も、絶え間なく襲いくる快感に簡単に阻まれた。 何だか無性に喉が乾く。 びくびくっと小刻みに揺れる体は自分のものではないようで。 ぎこちなく紡がれる喘ぎ声も恥ずかしくて。 キャロルは少し泣きたくなった。 「…気持ちよいか?」 「や!そ…んなこと―――聞か…ぁッ…!」 かぁ、と頬を赤く染めてキャロルは力無く頭を振る。 細くすらりと伸びたメンフィスの指は信じられないような動きを繰り返す。 確実に大きくなっていく水音が否応ナシにも耳に届いてきた。 「そろそろ良いな…」 「…っ!」 言葉と同時に最後の抱擁ときつく花心をこね上げられる。 メンフィスはそのまま、す、と手を離す。 ようやく止められた愛撫に、キャロルは熱い呼吸を繰り返した。 「キャロル…大丈夫か?」 優しいメンフィスの声が耳をくすぐる。 が、体はそれを楽しむ余裕などない。 先程よりは格段と落ち着いたものも、まだ熱を帯びていて。 想像よりも遙かにすごい感覚に、キャロルは薄い眩暈を覚えていた。 「キャロル、愛しき我が妃よ…」 しかしメンフィスはどうも様子が違うらしい。 頬を薄く染めてはいるが、それだけのようだ。 …なんか、女の方が負担が多いような… 少し恨めしくそう思って、キャロルはメンフィスを軽く睨んだ。 それに気づかずにメンフィスはキャロルの下半身へと再度手を忍ばせる。 そのことにキャロルも気づいていなかったから、なんだかおあいこのような気もするけれど。 「キャロル…」 囁いて、メンフィスはキャロルの秘部へと触れた。 びく、と不安そうにキャロルがメンフィスを見る。 メンフィスは軽く微笑んで、それからキャロルの唇に優しいキスを重ねた。 その優しさにキャロルがふ、と体の力を抜いた瞬間―――― 「イッっ…!」 鋭い疼痛がキャロルを襲った。 それでも構わずメンフィスは指を沈めていく。 「っ!ちょ、ちょっとメンフィス!」 キャロルは必死に藻掻く。 …が指はどんどん侵入していく。 「イッ……っイタっ…や、嫌!やめてぇっ!」 耐えきれずそのまま足を力一杯前に突き出した。 とどのつまり、蹴飛ばしたのだ。 メンフィスを。 メンフィスはぐ、と小さく呻いて寝台からドスンと落ちた。 思いっきり不満そうに顔を上げたメンフィス。 その視線に少々たじろぎながらも、キャロルはきっぱりと頭を振った。 「ごめんなさいメンフィス…でも、無理なの!」 「…何故」 「だってほんっとうに痛いのよ!?」 それはもう。半端じゃなく痛いのだ。…本気で。 「き、今日はここまでってことで…ダメ?」 ね?と可愛らしく小首を傾げる。 指一本であんなに痛いんだから、メンフィスのを入れられたらどうなるのか。 想像しただけでも恐ろしくて、キャロルは涙目になる。 しかしメンフィスは勢いよく立ち上がると、がばとキャロルを押し倒した。 「きゃあっ!」 「駄目に決まっておろう!ここまできて何を申す!?」 「だ、だって〜…」 涙声でそう反論したが、効果なし。 「――――ッっ!!」 また指をこじ入れられた。 キャロルが痛みに耐えられず弓なりに反る。 「や、あ…痛!」 「止めぬ!」 がんと言われてキャロルは目をぎゅっと強く瞑る。 そういえば、メンフィスって我が侭な暴君だったっけ… 痛みにぼやける思考の隅で、今更そんなことを考えながら。 「…ぅ、く…」 内壁を擦られる感触がいやにリアルに伝わってくる。 でも、それでもやっぱり到底気持ちいいなんて言えなくて。 どちらかというと、内臓を掻き回されてるみたいで気持ち悪い。 キャロルは微かな吐き気を覚えながら、それでも必死にその痛みに耐えている。 …耐えているのに。 メンフィスときたら、 「…もう一本増やすぞ?」 なんて平然と言ってくる。 キャロルは本気で涙を滲ませて、悲愴な声で叫びを上げた。 「ぜっったいに駄目!!」 「…入れる」 「嫌!」 「入れる!」 「嫌ぁーーーーー!!」 ぐ、と増した痛みにキャロルは涙をポロポロ零す。 その涙にさすがに動揺して、メンフィスは入れかけた二本目の指を慌てて戻した。 「メンフィスのバカぁ!残りの指も抜いて!」 「それだけは絶対に嫌だ」 むす、と呟く。 まるで駄々をこねる子供だ。 「無理だってばぁ…」 こんなに頼んでるのに。 本気で痛いのに。 一度くらいこっちの立場になってみればいいんだわ!…なんて思ったりもして。 「じきに慣れる」 しれっと言い放つメンフィスに、キャロルは口を開きかけたが言葉は出なかった。 変わりに出たのは呻きともとれる喘ぎ声。 「っ…ぅ、あ…」 いきなり、中を掻き回されたのだ。 こんなの絶対に慣れるわけがない! 痛切に思って唇をぎゅ、と引き結ぶ。 こんなんで、本当に気持ちよくなる日が来るのだろうか――― 「お、願い…やぁ…!あ…ッぬ、抜い…」 なんとか絞り出した言葉に、痛みがさ、と引いていくのを感じた。 はぁ、と溢れ出るような吐息を漏らす。 一瞬強い衝撃が襲ったあと、メンフィスの指が抜かれた。 まだ多少異物感は残るが、それでも先程までに比べればかなりマシだ。 「め、メンフィス……ありが…!??!」 ほっと一息ついて、礼を言おうとした瞬間両足を高く持ち上げられた。 キャロルが驚いて目を見開く。 「ヤ!嫌!な、何するの…!?」 「…そろそろいかせてもらう」 瞬間、ざっとキャロルは冷水を浴びたようになった。 ぐらりと視界が歪む。 まさか。まさか。まさか。 「いくぞ」 「ダメーーーーー!!!」 悲痛なキャロルの叫び声が、虚しく天井に消えていった。 NEXT >> |